戦国の世では、いつ隣国が攻めて来るかわかりません。ですから、兵を鍛えておくこと、城の堀を深く、塁を高くして攻めにくくすることが大切です。さらに大切なのは「人の心」です。城は古くから内応により落ちることが多々あります。この人の心にも強く影響するのが「食料(水を含む)」の最低限の配給です。これが滞ると忠義の心を保つのも難しくなり、屈強な兵士も十分に働けなくなります。今回は、先人の知恵から戦国武将ならぜひ知っておくべき籠城戦に備えた植物や食料についてまとめました。
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目次
北越軍記から基本を確認
まずは、軍記物の記述からどのような備蓄が望ましいのかの基本を確認しましょう。
上杉家の軍記『北越軍記』には、「城中にかねて植え置くべき草木のこと」という項目があり、「まつ、くり、えのき、うめ、渋柿、あおき、くわ、茶、ところ、山いも、かぶら、しょうが、だいこん」など多くの植物が記されている。さらに、「気づきしだい食用になる草木を植えよ」と書かれている。 「徳川家の家紋はなぜ三つ葉葵なのか」より引用
この記述にあるように、とにかく食べられそうものは、どんどん普段から植えておくことが大切です。
彦根城の備え
彦根城には、籠城戦に備えて全国より集められた植物があります。良いお手本になりますのでご紹介します。まずは、イチョウです。秋にとれる銀杏を食用にします。ケンポナシも秋に実が取れます。梨のような味がします。茶の木はもちろん飲料用です。その他、ビワ、イチジク、ザクロなど秋に美味しい果実がとれますし、水分を多く含むので飲料水の補完にもなります。
彦根城には、食用のほかに「防備用」「薬用」と様々な樹木が植えられています。元亀天正を生き抜いた井伊家の老臣木俣守勝の戦国の知恵が活かされています。もっと詳しく知りたい方は「彦根城の自然観察ガイド-彦根城の植物 築城当時の名残の植物」をぜひご覧下さい。
熊本城の備え
熊本城は、銀杏城との別名のあるくらいで大イチョウの木があります。朝鮮の役で食料に苦労した加藤清正が食用として植えたという話もあるそうですが、こちらは雄木で銀杏はならないそうです。それでも熊本城をお手本としてご紹介するのには理由があります。
ひとつは、熊本城の畳の芯には、通常の藁の代わりにサトイモ(ヤツガシラ)の茎が使われています。これは「ずいき」「芋がら」といい保存食になります。さらに土塀のつなぎにも「ずいき」を練り込み、壁にもユウガオからとれる「干瓢(かんぴょう)」が塗りこまれています。
駿府城の備え
駿府城には、徳川家康が植えたとされるみかんの木があります。こちらも実用的ですね。
「家康手植の蜜柑」
言い伝えによると、大御所徳川家康公が駿府城に御在城の折、紀州(現在の和歌山県、当時の藩主は浅野氏)より献上された鉢植えのみかんを、駿府城の天守台辺りに自ら植えたものと言われています。
このみかんの木は「ほんみかん」(紀州みかん)と呼ばれる、鎌倉時代に中国から伝えられたみかんの一種です。香りが強く種のある小形の実を結ぶのが特徴で、静岡地方のみかんの起源を知るうえで貴重なため、昭和25年に県の天然記念物に指定されました。
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籠城戦へ備えたい植物10選
さまざまな実例からぜひとも備えておきたい植物などの備えをランキング方式でご紹介します。ここでは、米、麦、大豆などの種となる食糧以外のものとなります。
第1位 柿(&干し柿)
柿の木はぜひとも植えたい植物です。甘柿は、飲料水の補完になりますし、一本の木から多量になるところが良いですね。それにも増して、干し柿(渋柿)は日持ちするので、日頃の大量備蓄には最適です。主な栄養素が炭水化物であり、高カロリーなのも嬉しいですね。戦国時代には、美濃の名産として知られるようになり、織田信長もルイス・フロイスに贈呈しています。
第2位 栗(くり)
栗は日本全国で栽培可能です。縄文時代から栽培されてきた炭水化物とミネラルが豊富な栄養価の高い木の実です。戦国時代では「かち栗(勝ち栗)」として縁起の良い食べ物としても知られ、戦場で常用されていました。長期保存も効くのが嬉しいですね。ただし虫も好むので保存の際には注意しましょう。ちなみに、栗のイガや木は火がつきやすいの燃料としても利便性があります。
第3位 ずいき(芋がら)
熊本城の備えとして、加藤清正も採用の「ずいき」です。畳や土塀の材料にしないまでも、長期保存が効きますのでぜひ大量備蓄しておきたいですね。
第4位 松(まつ)
日本のお城といえば、松の木を想像する方も多いかと思います。松の木の皮を剥くと表れる白い薄皮は脂肪やタンパク質を含んでいて、加工して粉とすることで食用として用いることができます。松皮餅の食材としても知られています。
松皮餅は天明の大飢饉の際に救荒食として作り始めたとも、矢島藩主の生駒氏が改易前の四国で兵糧攻めの際に作りだしたとも言われています。
第5位 梅(梅干)
梅干は、北条早雲が好み小田原での生産を奨励しました。梅干にはクエン酸が豊富で兵士の疲労回復にも絶大な効果があります。適度な塩分補給にも最適です。
戦国時代、小田原に居城を構え勢力を広げた北條早雲は、梅干の薬効と食べ物の腐敗を防ぐ作用に注目し、城下および周辺に梅の木を植え梅干づくりを奨励しました。さらに戦場においては梅干を紫蘇で巻き、泥などが付着するのを防いだのが紫蘇巻梅干の由来です。
第6位 蕨(わらび)
福岡城の多聞櫓の壁材は竹で編まれていて、いざという時は弓矢として用いることが想定されていました。この竹を束ねているのがなんと「干しわらび」なのです。黒田長政も歴戦の名将、さすがですね。もちろんこちらも水に戻して食用にします。
第7位 イチョウ(銀杏)
多くの戦国武将が用いたイチョウですが、銀杏が採れるのが秋限定で、常温では保存は1ヶ月~1ヶ月半くらい(意外と短い??)ということもあり7位となりました。ビタミンB1が疲労回復にも役立つので、兵士にとっては嬉しいですね。
第8位 蕗(フキ)
春の季節限定ということ、そして灰汁抜きが必要という手間もありますが、放っておいても城のあらゆるところで育つということで植えておいても良いかなと思います。わたしは「きゃらぶき」が好きなのですが、お城で長期保存は難しそうです…。
第9位 みかん(柑橘類)
徳川家康も駿府城に植えたというみかん。豊富な果汁は飲料水の補完として、またビタミン補給としても最適です。木に成らせておいた状態なら3ヶ月程度は保存可能です。
第10位 桃(もも)
関ヶ原の桃配山は壬申の乱(672年)の際に、大海人皇子が兵士に名産の桃を配り勝利したこと、そしてその故事に習って徳川家康も陣を引いて勝利しています。先陣の武将にとってはとても縁起も良い果実です。夏限定で、日持ちもしないことから第10位となりました。飲料水の補完には最適です。何より味が良いですね。
今回は籠城戦に備えたい食料ということをテーマにしました。『北越軍記』にあるようにとにかく食べれそうなものはたくさん備蓄が望ましいかと思います。(現代を生きるわたしたちも、大地震などで食料の供給が滞ることを想定し、日持ちのする食糧の備蓄(乾麺やもちなど)を怠らないようにしたいですね)
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