新年明けましておめでとうございます。お正月にはたくさん美味しいものを食べて、しばらくは体重計には乗らないようにしよう…と思っている方も多いと思います。それでもすぐに鏡開きとなりまたお餅をたくさん食べてしまい大変なことになりますね…。今年はそんなことにならないように気をつけたいと思います。
鏡開きは、今は1月11日の地方が多いですが、江戸の初期までは1月20日に「刃柄(はつか)の祝い」として武家が具足祝い、具足開きを行っていました。先祖伝来の鎧兜にめでたい食材を供えた「具足餅」を20日に雑煮などで食したのです。三代将軍家光が4月20日に亡くなってからは20日を忌避して、大名の米蔵開きの日であった11日となり、今の鏡開きにその伝統は引き継がれています。
刃の祝いに、具足餅といかにも武家らしいですね。さらに餅を分ける際には切腹を連想する刃物は用いずに木槌でたたき分けるという徹底ぶりです。
さて、今回はこの具足餅の様子を戦国乱世を戦い抜き、豊臣政権下で大名となった伯耆の国人領主南条氏のある正月からご案内します。(2019年1月2日最終更新)
南条中務殿、具足の餅の祝
伯耆の守護南条中務殿は、代々武辺の家と言い伝えられていました。この家では、毎年正月20日には、具足の餅の祝いがあり、侍たちは残らず城に集まっていました。
南条の殿様は、甲冑をつけて床几に腰をかけられ、大土器(おおかわらけ)での酒宴となりました。殿様は続けさまに二盃を呑まれ、「おもいざしなり、その方もおもいざしをせよと」とご家老に大土器にて盃をすすめられました。(おもいざしとは、自分のこれと思う人に盃をさすこと)
ご家老は、「ありがたきこと」と盃をおしいただき、なみなみと受けて呑み、そして自らもなみなみと酒を注いで、暫し考える様子をみせました。
その座にあるものは、「ご家老はだれにさすものか…」と待っていると、ご家老は首を伸ばして座のうちに視線を巡らせて、我が子を呼び出しました。
「この土器にておもいざしをせよとの仰せを受けて、しばし考えたが殿様に献じたのではとても厚かましい。その方よりも思う人はいない」と言って、土器を我が子にさしました。
突然のことでご家老の子は戸惑いましたが、親の命ずるとこであるので「かたじけなく存じます」と引き受けて、二盃を呑み干しました。
殿はとても感じ入って、「よくさしたり、よく飲みたり、酒の肴なくしてはかなわない」とそのとき身につけていた具足に帯びた脇差に熨斗蚫(のしあわび)を副えて賜わりました。
君臣と父子の情、そして真実の道理をあらわしていて、末頼もしいことということで、これを猜む(そねむ)人はいませんでした。(備前老人物語より意訳)
余話
このお話に登場する南条中務は、安土桃山時代から江戸初期の武将南条元忠のことです。南条氏は伯耆の国の国人領主で、戦国時代には尼子・毛利、そして織田と属する勢力を変えながらなんとか生き残ります。大勢力に翻弄されながらも、必死の舵取りを行う姿は、真田氏と同じですね。
元忠は幼くして父を亡くし、関ヶ原では西軍に属して伏見城・大津城攻めに参加したかどで改易となってしまいます。このとき元忠は21歳。父元続を幼くして亡くしていたのが時勢が味方しなかった原因でもあるかもしれません。ここにおいて大名家としての南条氏は滅亡します。
南条氏の旗が再び揚がったのは、大坂の陣でした。真田信繁同様に南条元忠も父元続以来の豊臣の恩顧に応えて旧臣とともに入城し、冬の陣では大坂城平野橋口を兵3千で守備していたと伝わります。
以下は軍記物の記述で真実はわからないのですが、元忠には次のような説があります。
①旧知の藤堂高虎(徳川方)から伯耆一国を条件に内通の誘いがあり、この誘いについて真田信繁に報告したうえで内通したと装って、寄せ手をおびき寄せ討ち取ったという説(厭触太平楽記)
②藤堂高虎の誘いに乗り、寄せ手を城中に引き入れようとしたことが発覚し、切腹をしたという説(難波戦記)
③②の切腹をしたのは、筑紫の国の南條中務少輔忠成であり、元忠ではないという説(大坂軍記)
ただし、③の筑紫の南條氏というのがよくわからず、いずれが真実に近いのかはわかりません。いずれにしても、元忠の家臣佐々木氏が大坂から元忠の遺骨を持ち帰ったとの記録があるため、大坂の陣で亡くなったことは確かなようです。
具足餅のお話は、おそらく元忠が大名であった1591年から1600年のいずれかの正月のことと思われます。鏡開きのめでたいお話から、大坂の陣で亡くなるまでのことがわかり、栄枯盛衰を感じざるを得ません。
少し最後は、めでたいお話が暗い話となってしましましたが、400年以上の後の世に、家臣と楽しく具足始めを行っている様子が伝わっているということが分かれば南条元忠もきっと喜ばれるのではないかなと思いました。
そのように想いながら、やはりわたしはお餅をたくさん食べたいと思います(笑)