【戦国時代】織田信長の爪切りと小姓のはなし(備前老人物語より)

投稿者: | 2018年10月29日

今回は、備前老人物語から織田信長の逸話をご紹介します。信長と爪切りと小姓のお話です。

昔の爪切り

現在私たちが使っているような爪切りは戦後に広く普及しました。それ以前にはニッパのようなものが使われていたり、さらにその前の江戸時代以前には、小さな和はさみ(握り鋏)や小刀が用いられていました。

夜に爪を切ってはいけない。」「夜に爪を切ると親の死に目に会えない。」ということわざをご存知ですか?これには、「夜に爪」=「世を詰める」ということで短い人生になるという意味合いがあり、あわせて小刀などで十分な明かりのとれない夜に爪を切る危険な行為を戒め、けがを防ぐ(その後の化膿による重症化を防ぐ)ための教訓とも伝えられています。

信長と爪切りと小姓

織田信長が活躍した時代に、信長のような地位にあった人は、どのように爪の手入れをしていたのでしょうか。まずは、備前老人物語を読んでみることにしましょう。

信長公、手の爪を揃え給いしを小姓とりあつめける (備前老人物語)

この文章からは、信長が自ら爪を切っていたのか、小姓が切っていたのか、そして切るのに用いたのが小刀なのか握り鋏なのかは明確ではありません。小姓とはいえ、危険な鋏や小刀での爪切りに心を許すというのは不用心のように思いますので、やはり文字通りに「信長が自ら手の爪を整えていて、切ったあとの爪を小姓がとり集めた」と読むのが妥当のように思います。

続きを読んでみましょう。

信長公、手の爪を揃え給いしを小姓とりあつめけるが、とかくだづね求むる体なれば、

「何をだづぬるぞ」

と問い給いしに、御爪ひとつ足らざる由を申す。お袖をはらわせ給いければ、爪ひとつ落ちたり。信長公御感ありて、物毎にかくこそ念を入れるべきことなれとて、御褒美ありけり。(備前老人物語)

この小姓さん、主君に確認したいことがありました。おそらく信長が爪を切っているとき音や様子をしっかりと確認していたのでしょう。切った爪を片付けているときに「おや?一本足りない」と思ったのでしょう。それでもそのようなことを主君に尋ねるのは勇気が要りますね。ましてや織田信長にですから…

しかし、そこは信長です。小姓の様子から「何か尋ねたいことがあるのか?」と問います。原文は「何をだづぬるぞ」ですからかなりの威圧感を感じるのはわたしだけでしょうか?

この小姓さん、職務に忠実で、切った爪の数と切られてここにある爪の数が異なることを信長に伝えました。信長が袖を払うと爪がぽろりと落ちました。

たかが爪切りといえども、主君の側にあって一挙手一投足すべてを正確に、そして念を入れて把握できていたことに信長は感心し、小姓に褒美を与えます。

何事にも手を抜かずに、しっかりとした仕事ができる有能な部下を信長が好んでいたことを表している逸話のように思います。皆さんはこの逸話からどのような感想を持たれたでしょうか?